見てわかるように、細くて軽くて低速に強いのがトライアルバイクです。トライアルは排気量によるクラス分けが無かった(最近の選手権では125cc区分ができた)ので自分が乗りやすければ何ccでもいいのですが、出光イーハトーブトライアルに参加するなら100ccから250ccの間で選びましょう。50ccはパワーが無さ過ぎて思い通りに走るのが困難です。
ライディングの自由度を増すために、車体がとても細く、外見上、燃料タンクが無いように見える車種もありますが、容量が2リットルから3リットル弱しか入らない小さなタンクが車体に内蔵されているのです。競技用としては不必要に重い燃料を抱えないで、足りなければ途中で入れればよいという考え方は合理的ですが、出光イーハトーブトライアルのような長距離ではスペアタンクを携行する必要があります。
2サイクルエンジンの場合は燃料のガソリンに潤滑用オイルを70:1ぐらいの割合で混ぜてから使うので、給油のたびにその作業が欠かせません。その点、4サイクルはガソリンを入れるだけなので簡単です。競技用として2サイクルは優れているのですが、各種の規制などにより今後2サイクルは減少し、4サイクルに代わられる時代の流れになっています。
低速性能が良いこともトライアルバイクの大きな特徴です。ふつうのバイクでは半クラッチを使わずに、ローギアで人が歩く程度の速度で走ることは不可能ですが、トライアルバイクならできます。それでいてトップギアでの最高速度は時速100キロを超えるのですから、守備範囲が低速寄りとはいえ、普通の道路を走ることも可能です。参考までに、普通の道路でのスタートには5速ミッションなら3速、6速ミッションなら4速を使います。つまり、1から3速はセクション用なので、道路上では実質的に3段ギアしか使わないわけですが、それでも排気量の割りに車体が軽いので意外と軽快に走ります。
トライアルバイクでは、バランスをとりやすいようにステップに立ってライディングするのが本来の使用目的なので、シートは無いか、無いも同然のものが多いのです。しかし、出光イーハトーブトライアルのように長距離移動がある場合は、やはり良いシートがついていれば楽であることはいうまでもありません。ただし、シートの厚みと幅は快適性には貢献しますが、足着き性の点では大いに不利になりますから、本格的に競技をする人なら快適性より点数を良くするほうを取るため、シートはごく薄いか、無いほうがいいわけです。
ステップが普通のバイクより後ろにあるのは、自分の体重を後輪にかけてリアタイヤの駆動力を増すためです。ついでに言えば、リアブレーキの角度もステップに立った姿勢で扱いやすいようになっていますし、ギアチェンジレバーの位置や角度も同様です。
さて、これまで述べたトライアルバイクの特徴は、本気で競技をする場合の有利さを優先した結果ですが、それほど本気で競技するわけじゃないがトライアルライディングを楽しみたい…という人向けに、大きなタンク、厚いシート、座ったまま踏めるリアブレーキのトライアルバイクもあり、出光イーハトーブトライアルのやさしいクラスならこのようなバイクでも性能的には十分ですし、むしろ日常の使用やツーリングにも使いやすい点が本格的な競技用バイクには無い大きな利点です。時間のある人なら岩手までツーリングしながら、そのままトライアルに参加し、またツーリングして帰ることも十分に可能です。
実際、第1回イーハトーブトライアル(1977)には、東京から125ccバイクで往復1500キロのツーリングをした参加者もいましたが、きっと良い思い出になったと思います。
トライアルは、モトクロス、ロードレースとは別の専門的な分野なので、少しぐらい自分の住まいから離れていても、トライアルバイクの整備や修理に十分な経験のある人がいるお店を選びたいものです。しかし、現実にはトライアルバイクに力を入れているお店は非常に少ないので、少なくともトライアルを知っている人がいるお店というあたりで妥協するしかありません。
新車を購入するなら何も心配することはないのですが、中古車の場合は買う前にトライアル経験者に相談するほうが良いでしょう。とくに2000年以前のモデルはもともと信頼性、耐久性が十分ではない車種もあり、すでに部品が無くなりつつある場合も考えられます。単に価格が低いからといっても、それはかえって高くつく買い物になるかもしれません。
しかし、ダメになったら捨てても惜しくない程度の値段、あるいはタダでもらえるなら、やっかいなのを承知のうえで古いバイクも考慮する価値はあります。(実際にはバイクを捨てるのには費用がかかる時代ですが…)
かなり古いバイクの中には、もともとトライアルバイクとしての出来が良くないために、思い通りに走れないものや、キックしにくくてエンジンをかけるだけで一苦労するバイクもあります。足場の悪いところで失敗すると、初心者はエンジンをかけるだけでヘトヘトになり、ますます思いどおりに走れないため、トライアルが嫌いになってしまったという笑えない話もあります。いくらタダでも、こう車種はやめておくほうがいいでしょう。
たとえレベルが低くても、トライアルは思い通りに走る腕前を競うのですから、バイクの整備状態はいつも完全にしておくことが重要です。とくにタイヤの空気圧はゲージで正確に測ります。セクションだけなら前0.4kg/c㎡、後は 0.3kg/c㎡ぐらいがいいのですが、長い山道コースの場合はリムが石に当たってパンクするのを防ぐのと、燃費を良くする意味もあって前0.5kg/c㎡、後 0.4kg/c㎡にすることもあります。チェーンの張りぐあいも重要です。適切な遊びがありながらも、アクセルの微妙な動きがすぐ後輪に伝わる…という感覚がポイントです。とにかく動く部分はブレーキディスクとパッド以外、全部油がいきわたってスムーズに動く状態に整備しておきましょう!さあ、これで練習の大前提が整ったわけです。